安珍と清姫の悲恋物語の舞台としても知られている和歌山県の道成寺。
道成寺に伝わる安珍と清姫の物語を解説してくれる「絵解き説法」が名物。
僧侶や職員が「道成寺縁起」と呼ばれる絵巻物を広げながらふたりの物語について説法を行ってくれます。
特に最近は歌舞伎の演目「道成寺(京鹿子娘道成寺)」が映画「国宝」のなかで重要なシーンとして取り上げられたことでも話題になりました。
本記事では、道成寺の歴史や見どころについてご紹介していきたいと思います。
道成寺の歴史
まずは、道成寺の歴史について簡単に見ていきましょう。
道成寺のはじまりは大宝元年のこと。
藤原不比等の娘であり、文武天皇の后でもある藤原宮子の願いによって創建されました。
藤原宮子は聖武天皇の母親に当たります。
文武天皇が紀州へ行幸した際に初めて本堂が完成したとされており、皇族との深い関わりも読み取れます。
また、道成寺の周囲は1400年前の古墳群などが発掘されているなど、古くから中心的集落であったとされている場所。
特に1800年前の国内最大級の銅鐸である「鐘巻(かねまき)銅鐸」は歴史的にも大きな意味を持つ貴重な遺物であるとされており、道成寺が創建する前から非常に重要視されていた土地であったことを物語っています。
能・歌舞伎・文楽の演目「道成寺」
「絵解き説法」でも語られる安珍清姫の伝説。
安珍と清姫の悲恋物語は能や歌舞伎、文楽の演目とも知られ、それらは俗に「道成寺物」として人気を集めてきました。
その数は何と百を優に超え、現在にまで語り継がれています。
ここでは、数ある道成寺物の多くの演目に共通するおおまかなあらすじについて簡単にご紹介していきたいと思います。
ある日、奥州から熊野詣に訪れた修行僧・安珍は真砂庄司の娘である清姫にひとめぼれされます。
清姫の熱烈なアプローチを断り切れなかった安珍は、熊野詣の帰りに立ち寄ることを清姫と約束しました。
しかし、安珍は約束の日になっても訪れません。
清姫はなにふりかまわず安珍を探し、ついに追い詰めますが、安珍は人違いではないのかと言います。
安珍は日高川の船頭にかばわれて船に乗りますが、なんと清姫は毒ヘビになって川を渡ります。
道成寺に逃げ込んだ安珍を僧侶は保護。
鐘の中に手引きして匿いますが、毒ヘビとなった清姫は鐘に巻き付き、炎を吐きます。
毒ヘビとなった清姫が吐き出した炎によって鐘は焼けてしまい、安珍も焼死。
清姫はそのまま入水自殺を図ってしまいます。
女性の怨念が最終的には片恋相手の僧侶を焼き殺してしまうというこの悲恋の物語はさまざまな演目で描かれ、特に歌舞伎では女形の最高峰とされています。
また、道成寺には藤原宮子にまつわる「髪長姫」の伝説も残されています。
藤原宮子は藤原不比等の娘である、というのが通説ですが、道成寺に伝えられている「宮子姫伝記」という絵巻物には、「髪長姫」と呼ばれる村長の娘であったとされているそうです。
さまざまな物語が残る道成寺。
1300年という長い歴史のなかでさまざまな危機を乗り越えながら存続してきたからこそ、このような物語が言い伝えられているのかもしれません。
道成寺の見どころ
ではさいごに、道成寺の見どころについてご紹介していきたいと思います。
本堂
南北朝時代に建て直された本堂。
昭和に行われた大規模な解体修理の際に、この敷地が1300年前の創建以降一度も雨風にさらされていないことが判明したそうです。
700年近く使われてきたこの本堂は国の重要文化財にも指定されています。
仁王門
能楽の演目「道成寺」の乱拍子が生まれたと言われている62段の石段と、それを登り切った先にそびえる仁王門。
平成に入ってから塗り替えられたので新しく見えますが、元禄年間に建立されたものです。
三重塔
宝暦年間に再建された三重塔。
創建当時にもこの場所にあったそうです。
建物は総桧造りで、高さは20メートルほどあります。
縁起堂(絵解き説法)
芸能に関する資料を展示している縁起堂。
「道成寺縁起」という絵巻物を用いて、創建にまつわる「髪長姫の物語」や、能や歌舞伎の題材として親しまれている「安珍と清姫の物語」を僧侶がわかりやすく解説してくれる「絵解き説法」が人気です。
毎日3~10回ほど行われているのでぜひお参りと合わせて聞いてみてください。
宝仏堂
御本尊が祀られている宝仏殿。
千手観音、日光菩薩、月光菩薩といった国宝の仏像や、11点にも及ぶ重要文化財に指定されている仏像をはじめ、さまざまな仏様が安置されています。
建物自体も重要文化財に指定されています。
まとめ
道成寺の歴史や見どころについてご紹介しました。
長く親しまれている「道成寺物」で知られ、1300年以上の歴史を持つ和歌山県屈指の名刹です。
安珍と清姫の物語が現在も受け継がれ、語り継がれています。
1日に3~10回ほど行われている絵解き説法は、ぜひ一度は聞いてみたいですね。
ぜひふたりの物語に浸る旅へ出かけてみてください。